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CEOブログ -SPECIAL INTERVIEW 03 後編 – 壮大で無謀なチャレンジだからこそ価値がある
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- Category:
- コラム
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- Date:
- Nov.15.2021
対談企画・第三弾、干場義雅氏の後編です。ブルネロ・クチネリの経営哲学に共感し、未来図に色がついたという伊早坂が、実際にクチネリ氏とも親交のある干場さんと、これからの企業の理想像について語り合いました。
夢に色がついた瞬間
伊早坂:対談の前編でブルネロ・クチネリというブランドの話に触れました。干場さんとも懇意の葉加瀬太郎さんとの対談でも話題となったのですが、クチネリ氏の経営哲学、従業員の幸せや豊かさを重視する姿勢に感銘を受けて、やはり、こういう哲学や想いを持って経営すべきなのだと、私が思い描いていたあるべき姿・目指すものに確信が持てたのです。
干場:既存の資本主義的経営ではなく、人間らしく生きて働こう、「人間第一」を主義とする経営方針ですよね。クチネリさんはモノを作っている職人へのリスペクト、一緒に働く従業員の幸せこそ大切であるという信念が明確です。これまで多くあったような企業規模の拡大を是とする会社とは全く異なる価値観を持ちながら、多くの人々に支持されるブランドを構築し経営している点は、これからの企業の姿として、ひとつのモデルを示しています。
伊早坂:上質な企業を目指すには、私自身が上質なモノを知り、体験することが必要だと思ったことがきっかけで、上質で名高いブルネロ・クチネリを選びました。形・素材・着心地・雰囲気、どれをとっても素晴らしいの一言です。まさに「感動モノ」です。
それであるとき、お店の方に「これを読んでみてください」と、クチネリ氏の哲学が詰まった本をいただいたんです。その本を読んだ瞬間に鳥肌が立ちました。そこで「クチネリ氏の人となり」を知り、感動したんです。
川島製作所の代表を引き継いで、これから会社をどうしたらいいか、どうなるべきかをずっと考えて未来図のようなものはあったのですが、白黒の絵だったものに一気に色がついた瞬間でした。
干場:人間第一主義だと。
伊早坂:そうです。不思議なものですが、本も人も実現したい強い想いがあると導かれるように出会うものですね。そして、YouTubeで干場さんがソロメオ村のブルネロ・クチネリに行かれた時の動画を観て、感動して涙したんですよ。あの空気感というか、企業としての姿に心が揺さぶられました。
干場:わかります。私もその場を体験しただけに圧倒されましたよ。従業員のみなさんが幸せそうに働いていますし、人間の尊厳というか、人生の豊かさに重きを置いている姿勢に、企業とは何か、人生や仕事で大切なことは何かということを考えさせられました。
クチネリさんは人間の理想郷をつくっているのではないかと思っていて、いまが良ければいいというのでなく、未来を視野に入れていらっしゃるんですよね。
伊早坂:そうなんです。それに刺激を受けて、川島製作所の本社があるここに、クチネリ氏がつくっているソロメオ村のような、“川島村”をつくる構想も夢みています。
干場:素晴らしい。そんなビジョンもあるんですね。
もし、川島製作所が“村”をつくるなら。フューチャーマップに描く未来
伊早坂:じつはすでに従業員にこれからどんなことがしたいかという意見を募り、工場内でオーガニックの野菜をつくるファームや、お昼にみんなで食事をしたり、ご近所の方が食事に来られるカフェテリアを開けたらいいなと、夢を描いているんです。実際、絵にもしています。
干場:素晴らしいですね。いち企業がコミュニティをつくり、村になって、地域にもなるという構想には夢があります。ぜひ、実現してもらいたい。
伊早坂:壮大な話なんですが、夢に色がついたというのは、そういうことなんです。これは無謀な夢かもしれません。しかし、チャレンジすることでゴールには必ず近づくことができるはずで、それを目指そうとする情熱と過程にこそ価値があるだろうと思っています。
私が先陣を切って挑戦する姿を従業員に見てもらいたいですし、「何を言っているんだか」ではなく、「おもしろそうだから一緒に挑戦したい」という仲間を増やしたいところです。
干場:突拍子もないからこそ夢があるんですよ。素晴らしいですよ。最初は「何を言っているんだ?」と思われるかもしれないですが、多くの偉業の始まりは、いつだってそうです。クチネリさんだって荒れ果てた土地に教会を建てたり、サッカー場をつくって魅力的な村にして今があります。夢と信念があれば、仲間は集まるはずです。
伊早坂:よく従業員に言うんです。「所詮自分だから、所詮この会社だからとか、そういう概念を捨てよう」と。所詮という言葉は禁句です。それを言ってしまうと、範囲や限界から抜け出せないんです。考え方次第で未来は変わると信じています。
干場:おっしゃる通りです。一番かっこいいのは前代未聞で、前人未踏なこと。高い目標を掲げるのが大切ですよね。さきほど伊早坂さんがおっしゃったように、実現できなくてもその過程で得るものがたくさんありますしね。
引き算の理論と、自然との調和
伊早坂:私は、モノづくりや経営について、2つの視点を持っていて、ひとつが「引き算の理論」。干場さんにご覧いただいた当社のエントランスのイメージや製品がそうです。加飾をせずに機能やデザインのムダを省くことで、モノの「本質」を見出すことです。
もうひとつが、これはまさにクチネリ氏からインスパイアされたことなのですが、「自然との調和」です。
干場:共生、共存ということですね。
伊早坂:そうです。コロナの影響でテレワークも普及して、従業員同士がなかなかこれまでのように密なコミュニケーションがとれなくなりました。その状況で、限られた時間の中でできるだけ居心地のいい空間が必要だろうと、オフィスのデザインを一新したんです。
木を使ったり、暖炉を入れたり、自然の中で仕事をしているような環境で、新たな発想を得たり、パフォーマンスを上げてもらいたい。
とくに当社の場合、扱う機械が金属的なメタリックで無機質になりがちなので、だからこそバランスをとれるように意識して、自然を取り入れたフロアを作りました。
干場:いま対談している、こちらのフロアのことですね。
伊早坂:私は常にバランスや陰陽という相反するものの共存を意識していたのですが、これもクチネリ氏の本を読んで腑に落ちたところです。偏りないものこそ美しい。会社の男女比もそうですし、仕事とプライベートのバランスもそうです。バランスということは常に意識しています。たとえば、従業員に対しても、仕事偏重とならず、人生そのものを楽しんでほしいと願っています。
干場:イタリアの企業や国民性が参考になるかもしれないですよ。「マンジャーレ(食べて)、カンターレ(歌って)、アモーレ(愛して)」という、イタリア人気質を表す言葉があります。すべてのイタリア人に当てはまる訳ではないですが、日本人とはまた違った国民性があります。仕事も大切、でも生活や人生を思う存分楽しむという精神です。そういう人たちがつくるモノや企業のあり方を知るのも興味深いです。
伊早坂:フェラーリのように色っぽいモノはそうした文化だからこそ生まれているのでしょうし。やはり、いろいろな価値観に触れることが大切ですね。
コロナ禍で危惧すること。体験の数だけ本物になれる
干場:そうですね。イタリアの企業だけがヒントではなく、世界中に一流のメーカーやブランドが存在しているので、広い視野で多くのモノやヒトに触れることです。
私は20歳くらいからいままでに100何十か国と飛び回って、さまざまな人に会って刺激を受けてきました。それがいまやコロナ禍でなかなか外に出れず……。現場に足を運ぶことで得られるものがたくさんあるので、この状況は私自身だけでなく、未来を担う若者たちにとっても心配だなと危惧しています。
伊早坂:人間性を高めるには体験こそ大事ですからね。こうして私が干場さんと対談させていただくことも体験であり、勉強の機会です。当社の従業員にも素敵なヒトやモノに触れて刺激を受けてもらいたいと思います。コロナ禍を言い訳にせず、そのような機会を経営者としていかに作れるかどうかは課題ですね。
干場:一方でコロナ禍の影響で、モノを大事にする世の中の潮流が生まれていますよね。サステナビリティやSDGsという流れもそうです。でも、これって実はいまに始まったことではなくて、元からわかっている人たちはいたんです。
私が上梓した書籍『これだけでいい男の服』の序文にも記したのですが、イギリスのチャールズ皇太子は「買うなら一度だけ、良いものを買え(Buy Once, Buy Well.)」をモットーにしていると言います。選び抜いた良いものを、“かけはぎ”“つぎはぎ”しながらケアして長く使っている。これこそが本物のスタイルですし、それほど愛されるモノをつくりたいですよね。
伊早坂:当社の製品もそうありたいものです。「川島があればいい!」と思える製品や企業になるべくチャレンジを続けていきます。本日はとても勉強になりました。ありがとうございました。
干場義雅(ほしばよしまさ)
1973年東京生まれ。ファッションディレクター、『FORZA STYLE』(講談社)編集長。
雑誌『MA-1 』、『モノ・マガジン』、『エスクァィア日本版』などの編集を経て、『LEON』、『OCEANS 』など人気男性誌に創刊から関わり、“ちょい不良オヤジ”ブームをつくる。
2010年に独立し、株式会社スタイルクリニックを設立。船旅を愛する男女誌『Sette Mari(セッテ・マーリ)』の編集長を務めるほか、テレビ、雑誌、ラジオ、トークイベントをはじめ、ブランドプロデュース等でも幅広く活躍中。自身の好きなものだけを集めたオンラインセレクトショップ「MINIMALWARDROBE」と「SIMPLE-LIFE」も手掛ける。
インスタグラム@yoshimasa_hoshiba も人気。
撮影/山田崇博
文/クロスメディア・マーケティング