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CEOブログ -SPECIAL INTERVIEW 02 後編 – Never Never Never Give Up & 突き抜ける努力
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- Category:
- コラム
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- Date:
- Oct.18.2021
対談企画・第二弾、伊部菊雄さんの後編です。「G-SHOCK」のような世界中に愛される製品のつくり方、モノづくりのモチベーションを維持するための方法、川島製作所と伊部さんの取り組みの共通点などについてお聞きしました。
そして最後、モノづくりを志す方へ伝えたいメッセージもお届けします。
「G-SHOCK」の譲れない2つのルール
伊早坂: 初代モデルから約40年が経ち、何千という種類の「G-SHOCK」が世の中に出ていると思うのですが、これだけはブレてはいけない「軸」となるものはあるのですか?
伊部: 「G-SHOCK」はとてもシンプルですよ。
ひとつは耐衝撃性、つまり丈夫であるということ。よくメディアでも取り上げられるのですが、私が提案時に書いた一行の企画書「落としても壊れない丈夫な時計」というテーマは一貫して守られています。
もうひとつは、防水性です。水深200メートルの水圧にも耐えられる基準がクリアできればOKです。あとは自由なんです。
伊早坂:たった2つとは驚きです。自由ですね。この2つの軸を守りながら、最新のテクノロジーやユーザーのニーズを反映していくわけでしょうか?
伊部:そうです。興味深いのが、一見自由に見えて、制約があるからこそアイデアが出るみたいです。「G-SHOCK」のデザイナーたちは本当に優秀で天才級の人たちが担当していますが、「好きにやっていいよ」というと逆に手が動かなくなるみたいです。「制約をください」という声もあがるくらいですから。
たとえばいまはセンサーを内蔵した「G-SHOCK」がありますが、センサー部分に衝撃を吸収する構造を施さないとならない。必然、その部分が大きくゴツくなり、そこを極限まで削る必要がありますが、そこをうまく活かしてセンサー部分を特徴とした洗練したデザインを表現しています。
伊早坂:私もその一人ですが、皆さんの細かな“こだわり”がユーザーに届いて魅了されているんでしょうね。デザインだけでなく、メタル部分での加工でのバリが無いとか、研磨の仕上がりの美しさ。ヘアラインの雰囲気など、こだわりが伝わってきます。
洗練したデザインのモノづくりというのは当社も常に意識している点なのですが、たくさんの「G-SHOCK」の中でも、とくに長く残っていく製品ってどんなものだと思いますか?
伊部:ファッションや流行を追いかけたものではなく、本質にまで届いた製品は残っていくのではないでしょうか。「言うは易し、作るのは難し」なのですが。
機能、性能、デザインに無駄がない、贅肉を削ぎ落したものは長く残っていく可能性がとても高いと思います。
伊早坂:(資料の「G-SHOCK」を見ながら)、ここにポンと置いてあるだけで、すべてを物語っているということなんでしょうね。
例えるなら自然界の動物や昆虫なんて、ムダがないですしね。人間はつい着飾ってごまかすようなところがありますが、本当に大切なのは、内面の本質の部分にこだわって勝負できるかどうかですね。
伊部:素晴らしい視点ですね。「G-SHOCK」の開発当初はお取引先のメーカーさんから「カシオさんのこだわりについていけない。過剰だ」と言われました。ですが、それ以上にお客様の目は厳しいものです。
その状況で、私だけでなく、一緒に「G-SHOCK」を担当したすべての仲間たちが誰も妥協をしなかったことが、「G-SHOCK」であり、カシオの品質、ブランドにつながっていったのだと思います。
「G-SHOCKを大きな柱にして、メーカーさんに必ず恩返しします!」と、何度もメーカーさんに掛け合ったのは、良き思い出です。
伊早坂:すごいですね。私たちも同じような経験があって、当社が妥協したくない点や要望をなんとか業者さんに協力していただいて。そういうときは、熱量がものを言いますよね。
伊部:それしかないでしょうね。スマートな仕事がしたい若い人たちには好まれないかもしれないですが。でも、何か困難にぶつかったときに、スマートだけの姿勢で乗り越えていけるかなと、心配になるところです。
「G-SHOCK」のヒットはひとりではできなかった。誰かのために働くということ
伊部:そんなことを言いながら、私も決して立派な人間ではなくて、こうなりたいとかこうしたいという志がない若者でした。むしろ、できないことや、やりたくないことを消去法で消していった結果、カシオに拾ってもらって技術者のスタートを切ったんです。
伊早坂:意外でした。「近頃の若者たちは!」とは言えないですね(笑)。
伊部:おっしゃる通りです。いまの若い人たちは、みんな私に比べたらはるかに勉強熱心で、優秀ですよ。
私は、機械工学専攻なのに設計が苦手という致命的な人間だったので、入社3年目には転職しようとすら思ったことがありましたし、キャリアに思い悩むのはいまの若い人たちと一緒でしょうね。
伊早坂:それが「G-SHOCK」の一行の企画書で、人生が変わった?
伊部: 社内で企画を通したいとかいう気負いは全くなくて、ただ「こんな時計があるといいな」と作りたいだけだったんですね。企画にGOが出たときは、嬉しいというより、「どうしよう、しまったな」と思ったくらいでした。それからは苦難の道のりでしたね。
伊早坂:伊部さんの書籍にあった、「 評価してくれた上司の方への責任や自分で提案したからこそ自ら形にして見せる」というフレーズに心が動きました。
自分だけのためでなく、人の恩に応えるなど、人の役に立つこそが原動力なのかなと。
伊部: そうですね。消去法な生き方ではありますが、一度決めると全力投球するタイプなんです。当時の上司の期待に応えたい気持ちはありましたね。
開発以降も、「G-SHOCK」がここまでのブランドに育ったのは、多くの関係者の力です。私が開発に費やした期間は約2年。その後、売れない数年もあった中で、粘り強く向き合った人たちがたくさんいます。ひとりでは成し得なかったことです。
モチベーションを維持する方法
伊早坂: 開発の過程でとてつもない苦労があったことも存じ上げています。モチベーションの維持はどうしていたのですか?
伊部: モチベーションの維持については、「G-SHOCK」の開発当時より、開発から離れた時期に価値観を変える出来事がありました。
それまでは、「自分が設計したものを世に出したい」「新しい構造を考えて周囲を驚かせたい」と、どこか邪念というか欲があった気がします。それだと、時々のハードルをクリアしてもまた次、次と終わりがなくて、結局行き詰ってしまうんです。
それが部署異動で商品企画部に移って、低価格・高品質の時計を発展途上国向けに商品を企画するという仕事についたんです。このときが転機でしたね。
時計を買ってくださる方の笑顔でわかるんです。「この人は一生、この時計を大事にしてくれるんだろうな」と。
前編で伊早坂社長がおっしゃったように、人の役に立つとか、幸せは価格ではないんですよね。ささやかでもいいから、人の笑顔につながる仕事やモノづくりに携われることの幸せに気づいたときに、モチベーション維持の悩みは一切なくなりました。
伊早坂:そうなんですよね。当社が掲げている「そこまでやるか、をつぎつぎと。」のスローガンも、お客様や仲間たちの笑顔のためなんです。
誰かに喜んでもらえることがすべて。ここにモチベーションの源泉が持てたら、どんな苦労も乗り越えられるし、むしろ、こちらから何かやらないと気が済まなくなります。
伊部: その気持ち、とてもわかりますね。
伊早坂:小さな喜びや、ささやかな幸せを大切にするのは素晴らしいですね。一人ひとりがささやかな幸せを積み重ねていける会社になれたら、誰もがハッピーになれそうです。それが理想でしょうね。
Never Never Never Give Up & 突き抜ける努力
伊早坂:当社のスローガンでもある「そこまでやるか、をつぎつぎと。」と、伊部さんが「SHOCK THE WORLD」で伝えていらっしゃる「Never Never Never Give Up(決して、決して、決してあきらめない)」というメッセージは、共通する点がありますね。
伊部: 時計と包装の違いはあっても、この精神は、モノづくり共通のものですよね。ちなみに、ネバー・ギブアップという言葉は世界共通に人々の心に響きます。
最初は、日本特有の美意識かと思っていたんですが、国民性を超えますね。みんなの心に刺さります。
伊早坂:「SHOCK THE WORLD」では、どの国に言っても母国語でプレゼンテーションをするんですよね。
伊部: これも軽い気持ちで通訳を介さないほうが、観衆の方に気持ちが伝わると思って始めたんです。G-SHOCKの企画書を書いたときと同じように、後先や裏付けがないままに勢いで始めてしまうのが、私の癖で。我ながら、学習能力がなくて、「どうしよう、しまったな」と思いながら、なんとかベストを尽くしています。
お勧めしない生き方ですが、こんな人間もいるので、私よりもはるかに賢くて勉強している若い人たちには、恐れずチャレンジしてもらいたいですね。
伊早坂:行動が先というのを体現していらっしゃいますね。
伊部:最後に、この対談原稿は、これからのモノづくりを担う方へ向けたものでしょうから、あえて伝えたい言葉があります。
伊早坂:それは?
伊部:「突き抜ける努力」という言葉です。
一時期はいろいろな講演で、「人生1度は突き抜ける努力が必要になる。それをやったときに見えるものがある」と話していたんです。実際、私が「G-SHOCK」を開発したときがそうだったので、成功体験として話していたんですね。
でも、これは時代背景もあり、あえて勧める働き方や生き方ではないなと反省もあって。私がたまたまラッキーなだけで、あまり追い込んで病気になったら元も子もないですし。
伊早坂:とても繊細な話ですが、モノづくりのひとつの真意でもありますよね。私も設計に行き詰った状況で、さらに自分を限界まで追い込み、「ふっと、アイデアが閃いた」経験が何度かあります。
伊部:あまり要求するものでもないですし、最近は伝えていないメッセージだったのですが、モノづくりの次代を担う人には、知っておいてもらいたいことだなと、久しぶりに声にしてみました。
伊早坂:いえ、むしろありがとうございます。
世界に愛される「G-SHOCK」の開発には、伊部さんの苦労や、多くの方との協力への感謝、ささやかな幸せの積み重ねなど、多くのヒントをいただきました。
伊部さんに対しておこがましいですが、一緒にこれからのモノづくりを盛り上げて、もっとモノづくりを楽しんでいきたいですね。
伊部:こちらこそ本日はありがとうございました。じつは、こんな包装がしてみたいというアイデアがあるので、プレゼンテーションさせてください。まずは行動の実践です(笑)。
伊部菊雄(いべきくお)
1952年生まれ。上智大学理工学部を卒業後、カシオ計算機に入社。1981年「落としても壊れない丈夫な時計」というたった1行の企画書からスタートし、2年の開発期間を経て、1983年に初代「G-SHOCK」を世に送り出した。
1996年、フルメタルで耐衝撃構造を実現した大人のG-SHOCK「MR-G」をプロジェクトリーダーとして企画商品化。2004年には、カシオのブランドステージアップを目的に電波ソーラーを搭載したフルメタルのモデル「OCEANUS」を企画商品化。2008年からは、「G-SHOCK」の開発ストーリーを世界に伝える「SHOCK THE WORLD」をスタート。現在は次世代のエンジニア育成の勉強会やセミナー、日本全国の小学校での「発明教室」などを通じて、自身の想いやノウハウを伝えている。
カシオ計算機株式会社HP:https://www.casio.co.jp/
G-SHOCK公式ウェブサイト:https://gshock.casio.com/jp/
撮影/山田崇博
文/クロスメディア・マーケティング